5 内観の手順詳細

③手放し

さて、前項までの「エピソードを思い出した」という段階でブロックが手放せる方もいます。「十分にすっきりした」という方はここで終えても構いませんが、まだモヤモヤ感や不快感がある場合は、以下の手順を参考に、できる範囲で手放しを行ってみましょう。

注意

なお、この「手放し」の手順や方法については、一般化して説明することが難しいため、ここではあまり踏み込んだ記述をしません。

というのも、「ブロックとしてどこが本人にとって、一番ひっかかっているのか」という部分が人によってかなり違うため、同じことを行っても効果的になる場合と逆効果になる場合があり、手順を一般化するのが非常に難しいためです。

このあたりを知りたい方は、実際に体験していただくのが望ましいです。ご興味がありましたら、製作者の運営しているグループワークショップなどのご参加を検討ください。

 

ここでは、2つのエピソードの中で、より具体的な『自分と妹は同じ習い事に通っていた。自分は嫌だったけれど文句を言わずに静かに通っていたが、妹は「イヤだ」と騒いでいて、親もそちらにかかりきりだった。でも実際には自分のほうがイヤだったと思う』というエピソードを例として扱ってみます。

エピソードが出てきたら、まずはその場面を思い出します。

どんな場所で、どんなことが起きたのかを、なるべくありありと思い描きましょう。思い出したら、その時の辛い気持ちや悔しい気持ちを意識し、まずはしっかりとそこで「感じ切り」を行います(こちらの章「感情の感じ切り」で詳細に説明していますので、参照してください)。

なお、ブロックの抵抗が強い人は、「昔のことがあまり思い出せない」という方もいます。その場合は、その時のことを知っている人(家族など)に聞いてみて、客観的な情報を集めるのもいいでしょう。

感じきりをしても、なお引っ掛かりがあるという場合には、できる範囲で「その出来事が起きたメリット」を考えてみましょう。

ブロックの存在理由を紐解く

あらゆるブロックは何かしらのメリットがあって存在しています。ブロック解除の際には、そのメリットを自覚することでさらに手放しやすくなります。

この際の前提となる考え方は、【自分が相手にこの役をお願いしてやってもらっている】という考えです。

今回の件のエピソードで、例えば、それぞれに感じた思いを整理してみると、以下のようになります。

母親→「自分が我慢していることに気づいてくれてない、妹にばかり構っている。自分のことを見てくれていない」

妹→「自分は我慢したのに、妹は好き勝手やってずるい、うらやましい」

例えば、この前提に立つと、

母親→「あえて妹ばかりを構うようなふりをしてくれている」

妹→「あえて自分より好き勝手する役を引き受けてくれている」

と仮定して、何かのメリットをくれているはず、という感覚で考えてみます。

そして、大事な人間関係においてのブロックを解き明かすと、大部分のものは以下のいずれか(あるいは重複して)に該当します。

【ブロックを感じるメリット】

①愛情表現である:それをしてもらうことで愛を確かめている

②何かの理由になってくれている:これを何かの言い訳にしている、この問題にかまけて都合の悪いことから目をそらしている

③ブロックが受け取り拒否の理由になってくれている:まだ自分には受け止めきれないほど愛情や喜びが大きいため、ブロックがセーブする役割を担っている

 

この3つについては、個別に説明を加えます。

 

まず①愛情表現についてです。

先の項で「感情にはポジティブ・ネガティブの区別がない」というお話もしましたが、実は人間は、「ポジティブだろうとネガティブだろうと大きな感情を味わうほど愛情だと感じている」側面があります。

つまり、たとえ「不公平感」や「干渉」などの「ネガティブなつながり方」でも、そのほうが強く愛を感じられると思ったら、そちらを無意識に選んでいることが多々あるのです。

さて、ここでは「『不公平感や自分は二の次にされている感覚』によって、お母さんから愛情を貰おうとしてはいなかったか?」と考えてみます。適切な感じきりができていれば、「そうかも」という感覚が得られると思います。

 

さて、それを自覚することができれば、「この愛情表現を今までは採用してきたけれど、これからはどうしよう?」と考えてみてください。もし変えたいと思ったら「では代わりにどんな人間関係なら安心できるか」を自分で考えてみましょう。

例えば、「干渉でなくて、信頼して任せる関係になる」等、自分でしっくりくるものを決めてみるといいでしょう。もちろん、まだもう少しこの関係を続けたいのであれば、それでもかまいません。

 

<コラム>愛情のテンプレート

人は「基礎的な愛情表現の形」を自分を育ててくれた人から学び、それをテンプレートにします。

例えば、親が「干渉してくる」という関わり方を自分にしてきて、自分はそれに対して「反抗する」という関係性であった場合、

【自分もまた、大好きな人ほど、干渉するようになる】

【自分が大好きな人はいつも自分に干渉し、自分はそれに対して反抗する】

というような愛情表現の形をとるようになるのです。

これを、製作者は『愛情のテンプレート』と呼んでいます。

このテンプレートは心地よいものだけではありません。『干渉』や『暴力』や『不公平感』なども愛情表現の形の一つになりうります。「そんな心地よくないものが愛情のはずはない」と思うかもしれませんが、人は「自分が親にされたことを愛情だと無意識に解釈する生き物」であるのです。

そして、それに苦痛や寂しさを感じたとしても、それがかえって「これだけ苦しいってことは、それだけ相手のことが好きなんだ!」というように、「自分が必要する強い刺激」として潜在意識がとらえることも多いのです。それゆえに、「もっとこの感情で人とつながりたい」「この感情を味合わせてほしい」と潜在意識が求め、その状況を引き起こす…という場合があります。

人は、自分の【愛のテンプレート】を普段は自覚しません。それが当たり前のものとして生きているので、その特別性を意識することができないのです。しかし、テンプレートは、いいものも悪いものも、大切な人との関係性で必ず再生されます。

例えば今回の例であれば、パートナーや親しい友達、仕事の重要人物などの『自分の人生にとって影響が大きい人』や『自分が大好きな人』に、「ほかのものを優先されていて自分は二の次の感じ」「自分にあまりエネルギーをかけてもらえない感じ」という感覚があるはずです。

『大事な人に大事にされない感覚がある』『大事な人を大事に出来ていない感覚がある』という場合は愛情のテンプレートを見直してみると、きっと発見があるでしょう。

 

続いて「②何かの理由になってくれている」についてです。

これも非常に多いブロックですが、「この出来事や思いを、行動しない言い訳にしていなかったか」「あるいはしなくていいことをわざわざするための理由にしていなかったか」という視点で考えます。ここでは、感情を交えずにパズルのように考えるのがコツです。

この例でいえば

「妹のほうが可愛いに違いない」→親とうまくいかないと、親や自分と向き合わずに「妹のせいだ」と言い訳にしていたのかも?

→妹のせいにして、親と仲良くならないようにしていたのかも?

などが出てきたとします。

思い浮かぶ中で、「ああ、そうかもしれない」と思えるものや、不思議な納得感があるもの、腑に落ちてすっきりするような感覚が出てきたら、そのブロックであったということになります。

こうなると、妹は自分を邪魔しているどころか、「自分がまだ向き合う準備ができるまで、理由になってくれていた存在である」という解釈ができるわけです。

 

では続いて、③「ブロックが受け取り拒否の理由になってくれている」についてです。

受け取り拒否と聞くと、あなたは「愛情なんてもらえればもらえるほどうれしいに決まっている。受け取り拒否なんてするわけがない」と感じるかもしれません。

しかし、繰り返しご説明している通り、感情にはプラスもマイナスもありません。ですから、感情の良し悪しに関係なく、今の自分の受け取り容量に対して大きすぎる感情が来そうなときは、なるべく小さくしたり、受けとらないようにしようという働きが無意識に起こるのです。

もっとわかりやすく言うと、『「とっても愛されていた!」ということに気づくとエネルギーが大きすぎて処理できないので、何でもいいから手ごろなブロックで理由をつけて「愛されていない」ということにして、実際より喜びを小さくしよう』ということなのです。

ということで、この手のブロックを持っていた理由として、よく出てくるのが「恥ずかしかったから」という理由です。壮大だったり複雑に見えるブロックも、奥の奥まで行くと結局は「愛されていたっていうことは実はわかっていたけど、単にそれを受け入れることが恥ずかしかった」というところに落ち着くことは実は多いです。「恥ずかしい」とは、人間が情報を処理するうえでの大事な防衛本能の一つなのかもしれません。

また、「愛されていると気が付くと、能力を発揮できない理由がなくなって、もっと活動しなければならないから」とか「新しい挑戦をすることを余儀なくされてしまうから」みたいな理由もよく出てきます。

ブロックとは、自分の準備が整うまで、自分を守ってくれている、補助輪のようなものでもあるといえるでしょう。

 

 

<コラム>本人に確認する

ブロックのきっかけになるエピソードが見つかったら、そのエピソードについて、実際に関係する人に確認してみるという手段もあります。

たとえば母親に「○○の時にこう思って辛かったんだけど、お母さんはどういう気持ちでこれを言ったの?」などとする方法です。

しかし、これは、自分のほうのブロックが手放せていなかったり、質問の仕方などによっては、かえって傷つくことを言われてしまう場合もあります。ですから、傷つくリスクを受け入れることができない場合はあまりお勧めできません。

また、基本的には内観は、「自分の中で完結して」行うものですので、相手に確認する場合はある程度内観に慣れてからのほうがよいでしょう。

なお、相手に確認しなくても「もし相手がものすごく私のことを好きなのに、こういう行動をしていたとしたら、どんな理由があるか」という可能性を考えてみるのも有効です。

 

③手放す

さて、ここまでの過程で「十分にすっきりした」という場合はここで終えても構いませんが、まだ不安な感じや、向き合う余地がありそうな場合は、さらにしっかりと手放しを行うとなお効果的です。

手放しは「これはもう必要ありません、今まで守ってくれてありがとう、これからは○○でつながろうね」というように心で思うだけで行えます。

想像することが得意な方は、イメージの中で、相手と抱き合ったり、笑いあったり、暖かい光で包まれているような想像をするとなおいいでしょう。

ここでポイントなのは、「これからはどういうもので繋がりたいか」を決めること。

例えば、今回の例では、親に対して「構ってもらえなかった、不公平だ」という気持ちでこれまでつながっていましたが、今後はどうしたいのかを自分なりに考えます。

例えば、「信頼しあっている、言葉で言わなくても繋がっている感覚がある」という気持ちでつながりたい、などと具体的に決めるのが望ましいです。

なぜかというと、今までのシステムで使っていたものを取り外す場合、「代わりに何を使うか」ということを決めておかないと、バランスが取れずにまた元の形に戻ってしまう場合があるからです。

④行動する

さて、ここまで行ったあとは、手放せたかどうか確認してみましょう。

確認するには、「掘り下げてみたもともとのエピソード」をもう一度思い返してみます。問題なくブロックが解消されていれば、心のざわつきなどはなくなり「何をあんなに気にしてたんだろう?」というケロっとした感覚になります。そのような状況であれば、確実に解除されていると判断してよいでしょう。

また、完全に解除出来ていなくても、「嫌悪感が減っている」というだけでも効果は出ています。最初のうちは完璧を目指しすぎず、少しでも変化を感じたら、行った自分をしっかりとほめてみましょう。

 

さて、「ブロックが解除出来ていそうだ」と感じたなら、変化を定着させるためになるべく早く「行動」を起こすのがおすすめです。

例えば、この例では「ブロックを外して『理不尽さから、安心と信頼に基づいた関係』にシフトする」ことを選びました。ですから、母親や妹に対して『安心と信頼に基づいた関係である』ことを前提とした行動をとります。

具体的には『メールなどで相手に「いつも信頼してくれてありがとう」と伝えてみる』とか『相手が否定するだろうと思って言わないで置いたことを勇気を出して言ってみる』とか、そういった類の行動です。

この行動は、一般的には照れくさかったり、勇気のいるものであればあるほど、効果が大きい傾向があります。先送りせず、すぐに行動に移すのがコツです。そうすることで、外れたブロックがしっかりと定着しますので、ぜひ行ってみてください。

なお、ブロックを外した時点で、相手の潜在意識にも影響を及ぼしています(自分の潜在意識が相手の意識を作っているためです)。ですから、しっかりとブロックが外れていたら、次に会ったときに、相手に変化が見られたり、今まで言わなかったようなことを言ってくれる場合があります。また、内観のきっかけになった『会社の○○さん』との関係も変わったりする場合もあります。ですから、自分を取り巻く人物や現実の変化も、注意深く見てみましょう。

ブロックには多くの種類があり、一つを手放しても現状があまり変わらないこともあります。ですがしっかりとブロックが外れると、あなたの気持ちや感じ方が変わっているはずです。

以前とは違う考え方や見方が出来るようになったり、新たな行動をとれるようになったりした場合も、ブロックが多少なりとも解除出来ている、と見なしてよいでしょう。

Posted by momokami