2 ブロックとは
この章では内観には欠かせない「ブロック」の概念について説明します。
ブロックとは?
ブロックにはいろいろな側面がありますので、いくつか角度を変えてご説明します。
まずは、①『自分の願望のブレーキ』。
例えば「幸せになりたいと顕在意識で思っていても、潜在意識にある「幸せになりたくない!」と思う気持ちがそれより強いと、叶いません。ブロックがあるとはこのように「アクセルとブレーキを同時に踏んでいる状態」とも言えるでしょう。
人間は顕在意識で考えることは自覚できますが、潜在意識で考えていることは認識することができません。内観とは、潜在意識に存在するブロックを「顕在意識で認識して、対処する」という作業でもあるのです。
続いて、もう一つのイメージは②『通行止めの標識』。
車を運転していると、自分が行きたい道に、「ここからは立ち入り禁止」の標識が立っている。ここを通らないとものすごく遠回りになってしまう。ほかの人はスイスイ通っているように見えるのに、自分はその先からどうしても先に進めない。時にはこんなものに従わなくてもいいとまでわかっていても、足が動かない…という感じです。
つまり内観とは、「立ち入り禁止の標識の中で、もう必要のないものを撤去すること」でもあるのですね。
3つ目のイメージは、③『自分の能力や魅力を制限する装置』。
例えば『お金を自分のために使ってはいけない』というブロックのある人は、お金という道具を通して『自分を大事にすることや、自分に何かを費やすこと』を制限している状態にあります。その制限によって、間接的に『自分の能力や魅力が発揮されることをセーブしている』とも言えるのです。
ブロックは敵ではない
このような説明をすると、「ブロックはないほうがいい!持っていたくない!早く手放さなくてはダメだ!」という気持ちになる方も多いのですが、実は一概にそうだともいえません。
なぜかというと、ブロックには『自分を守ってくれている安全装置』という役割もあるからです。
先に例として挙げた『立ち入り禁止の標識』ですが、そもそもその標識が立ったのは、『この先に行くと危険が及ぶかもしれない』という防衛本能によるもの。やみくもにあなたから何かを奪う目的ではないのです。
ですから、ブロックはけして敵ではありません。「自分を守ってくれようとしている味方」であるという意識を持り、たまたま今の自分の利害と一致していないだけ、と解釈しましょう。ですから、標識を見つけても、みだりに引っこ抜く必要はありません。
まずは、『自分が行きたい方向』をしっかり定め、そこに立ち入り禁止の標識があったときに考えるべきは、「この先には危険があるかもしれないけど、それでも本当に行きたいのか?」ということ。
そのうえで、もしそれでも行きたいのなら「今まで守ってくれてありがとう」という気持ちをもって手放すという選択肢があるだけなのです。
ブロックがあるとどうなるか?
ではブロックを持っているとどうなるのでしょうか。
主に起きることは以下の通りです。
・自分のやりたいことや本来すべきことがなかなかできない
・行きたいところや未知の領域に踏み出せない
・自分の能力を発揮できず、我慢したり抑圧したりすることが多い
一般に、ブロックが多い方ほど、本来の自分らしくなくなり、委縮した気持ちや無力感の中で過ごしています(中にはそう見えない人もいますが、そのような人は感情がマヒしてしまっているような部分がある場合が多いです)。
「失敗をするともうお終いだ」という意識や、あるいは、「最初から自分は失敗作だ」という感覚があります。失敗するくらいなら行動しないほうがよい、完全に成功するという確信がなければ行動してはいけない…という前提があることが多いです。
また「選択肢が限られている」状況とも言えます。
例えば「親に逆らってはいけない」というブロックを持っている人は、「親に逆らう」「言うことを聞く」の本来2択があるはずなのに、常に「言うことを聞く」の一択しか選べないわけです。
もちろん「言うことを聞く」ことが、ベストな時もあるでしょう。しかし、明らかに理不尽なことを言われていたり、言うことを聞くことのデメリットが多いなど、「逆らったほうが自分にとってはよい」という場面でも、無意識に「逆らう」選択肢をはじめから放棄してしまう…というのがブロックがある状態なのです。
さて、「親に逆らってはいけない」というブロックがある人にはもう一つ特徴が現れます。それは、「親に逆らっている人を見ると、心がざわつく」という現象です。
自分の守っているルールを平然と破っている人を見ると、なぜか落ち着かない気持ちになったり、見て見ぬふりをしたり、あるいは頭が真っ白になって何も考えられなくなったり、気持ちがモヤモヤしたり、嫉妬を感じたり、「あの人は常識がない」と嫌悪感を感じてしまったりすることがあるのです。
これを「ブロックの抵抗」と呼びます。人は、自分のブロックを打ち破るようなきっかけになりそうな人や物事には、無意識にそのように距離を置き、自分の今のバランスを守ろうとするのです。
ですから、ブロックを自分から探したいと思った場合は『身の回りに起こった物事や人で、心がザワザワしてしまうようなこと』から掘り下げるのも効果的です(その手順はこちらの章で説明します)。
ブロックの成り立ち
さて、ここからは「そもそもなぜブロックは生まるのか」というお話です。
ブロックの発生の仕方にはいろいろなものがありますが、最もスタンダードなものは『何か特定の出来事があり、同じような辛さや苦しみを二度と感じないようにするために発生する』というもの。
例えば「親に反抗したら、殴られてしまい、それ以降親に反抗できなくなった」というケースがあるとします(ここでいうブロックは『親に反抗してはいけない』というものです)。
ブロックはあなたを守ろうとしている
この例でいう「殴られてしまった」などのように、人は、強くストレスが掛かったり不安や恐怖を感じた時、その事件が終わっても、そのネガティブ感情の”かけら”が意識に残ってしまうことがあります。
すると、潜在意識が「こんな恐ろしい思いはもうしたくない。こんなことが絶対にないようにしよう」と対策をとろうします。その結果、潜在意識が『「逆らわないように」というブロックがあれば、殴られてしまうリスクが劇的に低くなる』と考えると、自動的にそのようなブロックを生み出すわけです。
(※ちなみに、このブロックのもとになった体験を「原体験」(ここでいうと「殴られた体験」)、ブロックの核となる感情を「原感情」(ここでいうと「痛みや恐怖」)とそれぞれ呼びます)
さて、潜在意識はこのような防衛策を取るのですが、ここで問題が発生します。ブロックを生むことによって自分の身を危険から守ったつもりでいても、その一方で、「原感情」は「外に出してほしい」と騒ぎ出すのです。
抑圧された感情は、似たような現実を引き寄せる
そもそも人は、ポジティブな感情もネガティブな感情も「しっかりと感じ切って消化」することができれば、手放すことができる生き物です(詳細はこちらの章で説明しています)。
しかし、強い恐怖や不安などの「強すぎる感情」は情報量が多すぎるため、その場ですべて消化することができないことも多いのです。その結果、まだ消化されていない部分があるのに、蓋をして隠してしまうことがよくあります。
この例のケースも、「殴られた痛みや不安や恐怖」をしっかり時間をかけて感じ切ることができれば、トラウマにはならずにブロックも発生することもありません。しかし、恐怖がまだ体に残っているからこそ、生々しい恐怖が蘇るため、潜在意識が無意識に防衛策を取ろうとするのです。
しかし問題なのは「感情はいくら蓋をしてもなくなることはない」ということ。そして感情の特性として「隠された場合、また感じ切って消化してほしいと騒ぎ出す」という動きを取るということです。
消化してもらうためには感情を感じ切ってもらう以外にありませんから、「同じ恐怖を再び味わう」ことを原感情は求め、その結果、原体験とリンクするような出来事を繰り返し人生に引き起こすわけです。
ですから、『親に逆らってはいけない』というブロックを持っている場合でも、「逆らわないようにしたいのに、それに反して、やたらと親が理不尽なことを言ってきたり、逆らったほうが良いようなイベントばかり起きる」という現実が作られていくわけです。
ブロックがあるとこのように「ブロック側の防衛⇔原感情側のアピール」という、矛盾した動きの綱引きが起きます。これにより、激しい消耗や同じことの繰り返しが人生に起こるのです。
<コラム>原体験が些細でも甘く見てはいけない
ここでは「親に殴られた」という例をとりましたが、これは大部分のブロックはこれと同じような仕組みで出来ていることが多いです。
中には「え?こんな些細なものが?」と驚くような原体験もたくさんあります。例えば、「着ていた服を、少しからかわれた」とか「何を話していいかわからず、ちょっと気まずい思いをした」というようなものがブロックを生む場合も多々あります。
しかし、大きなブロックの根っこはたいてい幼少期にあります。大人から見ると些末だと思えることでも、幼少期の多感で繊細な子供にとっては、生命の危険に直結するような恐ろしいものだ知覚くすることは多々あるのです。
どうぞ「こんな小さなもの」と過小評価せず、その時の自分が「消化しきれないくらい強く感じた」ということをまずは認めてあげていただけたら良いでしょう。
<コラム>潜在意識は上書き保存システム
不思議に思えるかもしれませんが、実は、潜在意識の世界には「時間」という概念がありません。イメージとしては、パソコンで作った文書を「上書き」すると、もともとがどういう文書だったかは残らなくなるのと同じです。
意識の世界には、時間の経過による変化というのは記録されず、「今この部分を修正すると、もともとなかったかのようになる」という特性があるのです。したがって、原感情を感じ切ると、ブロックも最初からなかったかのようになります。
ブロックがあった頃のことを思い出せなくなったり、あるいは、「ブロックがあったと思っていたけど、そういえば今思うとブロックに反した行動も結構とれていました」ということを思い出したりというような「遡及して書き換えられている」ような現象が起こります。
ブロックを手放すには
さて、ではどうしたらブロックを手放せるのでしょうか。
様々な方法がありますが、ここでは基本的なものを2つご紹介します。
【ブロックを手放すためには】
①「原感情」を感じ切る
②ブロックを持っていることによる、メリットを手放す
まず「①原感情を感じ切る」。
これは、「原体験そのものがなくなれば、恐れるものがなくなり、そもそもそれを守るブロックの必要がなくなるので、自然に消えていく」という仕組みです。
もちろん、感情を感じ切らなくてもブロックが解除できることはあります。しかし、前述のとおり、「感情は感じなければ消えない」もの。ですから、感じ切っていないネガティブ感情があるということは、その分人生に「ネガティブ感情」が影を落とし、そういった事象を引き起こし、それがまた次なるブロックを生む…ということを招きます。
また、どんな人の人生にもいろんな出来事が起こるものですから、日々、自分に起こる物事を消化するという意味でも感情の感じ切りを身に着けておくのはとても有効です。感情を感じ切れるようになれば、それだけで人生がシンプルに、かつフラットなものになっていくからです。
さて、そんなメリットの多い「感情の手放し」ですが、詳しい内容や手順については、説明が長くなりますので、こちらの章にて詳しく説明します。
また「②ブロックを持っていることによる、メリットを手放す」について。
すべてのブロックは「今はあるほうが都合がいい」という状況であるからこそ、機能しています。ですから、そのメリットを自覚したうえで、「もう必要ないものは手放す」「ブロックの不合理さを認知する」「別な形で補う方法を見つける」等を行えばブロックは外れていくのです(これについては、こちらの章で詳しく説明しています)。
ブロックの扱いが難しい理由
ここまで説明を読んだあなたは「なんだ、こういう仕組みだとわかれば、簡単にできそう!」と思ったかもしれません。ですが、そう簡単にいかないことも多いのが内観です。
というのも、人間は今のやり方を変えようとしたときに、『潜在意識の抵抗』を受けるからです。
この「抵抗」については次の章で説明しますが、やみくもに立ち向かっては消耗するだけ。しっかりと傾向と対策を抑えたうえで、なるべく無理のない力で取り組んでいきましょう。