5 内観の手順詳細

この章では、内観の手順を具体的に説明していきます。

 

①【現実的な支障】モヤモヤする出来事が起こる

②【掘り下げ】出来事からブロックを取り出し、エピソードを特定する

③【手放す】 出来事を分析して、手放す

④【行動】やるべきことを決めて、即行動する

 

なお、『③手放し』以降については、一定のやり方を説明するのが難しいため(理由は後述します)、この章では一部のやり方の紹介に留め、「②掘り下げ」に力点を置いて解説します。

①現実的な支障

まず、内観したいと思ったら「目の前にある支障」あるいは「最近起こった、些細なんだけどなんだかモヤモヤする出来事」を掘り下げていきます。

例えば、今回は以下のような例を掘り下げてみることにしましょう。

「昨日、会社で○○さんに、何気なく『悩みがなさそうでいいよね』と言われたことがものすごく引っかかっている」

「せっかく内観するんだから大きなブロックを扱いたい」と思う方もいるかもしれません。ですが、大きなブロックは、複合的ブロックが組み合わされていたり、高度なブロックであることが多いため、最初の中は、ごく些細なことを取り上げるのがおすすめです。むしろ「ちょっとしたことにもかかわらず気になる」ということは、それだけ大きなものが隠れているということでもありますから、ぜひ試してみて下さい。

また、ある程度自分でブロックの内容を自覚していて、それを手放したいと考える場合(例えば「自分のためにお金を使おうとすると罪悪感が湧く」とか「人にNOというのが怖い」など)は、直接、そのもとになったエピソードを探してみるといいでしょう。

「幼少期に自分がそれをして、嫌な気持ちになったり、愛されないと感じた体験はなかったか」あるいは「幼少期に、親や身近な人にそれをされて、自分が嫌な思いをしたような体験はなかったか」と考えてみるのが望ましいです。

例えば、「自分のためにお金を使おうとすると罪悪感が湧く」という例であれば、前者は『自分の欲しいものを買ったら、親にいい顔をされなかった』というようなこと。後者は『家計が苦しいのに、父親が自分の趣味にばかりお金を費やしていて、家計にお金を入れなかった』などという例です。

前者の場合は「それをしたことで、愛されないと感じたから、2度としてはいけないと自分に禁じた」という動機でブロックとなります。後者の場合は「それをされる経験をしたことで、周りがこんなに嫌な思いをするんだと学習したので、これをしたら皆に嫌われてしまうからやらないでおこうと肝に銘じた」という動機でブロックとなります。

 

②掘り下げる

①の出来事を掘り下げて、「自分はどこが一番に引っかかっているのか」「隠している本音は何なのか」を明確にしていきます。ここが一人で行うのが最も難しいところです。

流れとしては「出来事」から「ブロック」を取り出し、そこから「その原因になったエピソードを特定」していくことになります。

ここでは内観書き出しシート(クリックでダウンロードできます)を使って、前述の以下のエピソードを掘り下げていきます。

「昨日、会社で○○さんに、何気なく『悩みがなさそうでいいよね』と言われたことがものすごく引っかかっている」

まず、シートの①の部分に「出来事」を書いたら、②の「感じたこと」の部分に、思いつくままのことを書き出してみます。

ここではあまり細かく考えず、浮かんだことを何でもメモしましょう。たくさん出てくる人は、別な紙に大量に書き出したり、あるいは、一つのエピソードごとに、付箋などに書いてみてから、特に気になるものをこの紙に書き込んでみてもいいですね。

うまく浮かばないな、という人は、ちょっとしたことからでもいいですし、あるいは「こんなこと考えているなんて、自分はダメだな」と思えるようなこと(例えば、○○さんの誹謗中傷みたいなことでもOKです)を積極的に書いてみましょう。

ネガティブなことを書くのは抵抗があるかもしれませんが、「あくまで手放すために行っているワークであって、○○さんを攻撃する目的で行っているわけではない」と認識し、どんなことを書いてもよいと自分に許しながらやるとよいでしょう。

とりあえず例ではこれくらいのことを書き出してみました。

 

 

では、この中で②の欄に出てきた思いの中から、特に気になるものや目に付いたものに絞って、2~3つをいくつか掘り下げてみることにしましょう。

「思い」から、ブロックを取り出すには

掘り下げるときには、以下のような<2つの質問>を用います。

 

 <2つの質問>

①WHY:なぜそう思うの?なぜそうなの?

②WHAT:それの何がいやなの?それの何が問題なの?

この2つの質問を繰り返すことで、以下のような「ブロック」を取り出してみます。

 

<ブロック>

「~しなければいけない」「~したらダメ」「普通は~だ」「こうなるに違いない」「いつもこうなる」「絶対に○○だ」

※自分に「こうしなければいけない」とルールを課すものや、「100%断定はできないのに決めつける」形のものはブロックとみなします。

ここでは、以下の3つのもの(赤く囲んだもの)に絞って掘り下げてみましょう。

 

「何がいやなの?」「なんでできないの?」という質問を元に、ブロックが出るまで書き出してみたのが以下のような図です。

この掘り下げについては解説を加えます。

まず最初の「悩みがないって何?感じ悪い!」を「それの何がいやなの?」で掘り下げて、【自分が嫌だと思っていることをより深く特定】します。

冷静に考えてみると「悩みがなさそう」というのは、言われてすべての人が傷つくというわけではないですよね。しかし、その言葉を自分はネガティブに解釈したからこそ気になったわけですから、その「解釈」を探していきます。

するとここでは「何も考えてない、気楽そうに思われるのがイヤだ」
→(なんでそれがいやなのか?)「そんな風に思われたくないけど、考えていることを見せたくない」→(ブロック)「悩みや弱みを人に見せてはいけない」というルールが出てきました。

この出てきたルールが、この件に限らず「いつも自分を縛っているな」という感覚があればブロックとみなします。

また、3つ目の「言い返したいけどうまくできない」というものに関しても解説を加えます。

掘り下げた時に「結局我慢するのはこちらになる」という思いが出てきました。このようにやってみないとわからないのに、決めつけて「断言」「言い切り」の形をとっているのであれば、ブロックとみなしていいでしょう。

「いまひとつブロックかどうか判断できない」というときには「この思いを自分の人生で繰り返し味わっている覚えがあるか(この例では『我慢するのはこちらになる』という経験を何度もしているか)」ということを思い返してみましょう。繰り返してあなたの人生に起きているのであれば、まず間違いなくブロックです。

 

さて、以上のとおり3つの思いを掘り下げると、以下の通り3つほど目立つブロックが出てきました。

 

①悩みや弱みを人に見せてはダメ

②かといって、悩みや不安がない人と思われたくない

③結局我慢するのはこちらになる

では続いて、この中で①②のブロックに絞って、ここから「エピソード」を掘り下げてみましょう。

<コラム>:ブロックとは矛盾である

さて、今回の例では、「①悩みや弱みを人に見せてはダメ」「②かといって、悩みや不安がない人と思われたくない」が矛盾するものになっていますね。

混乱するかもしれませんが、ブロックとはそもそもが矛盾した感情なので、このようなものが出てくるのは手放しの過程としてはとてもいい傾向です。

というのも、「矛盾することがあるということは、どっちを選んでも負荷がかかるようになっている」ということ。

この例でいえば「悩みや不安を人に見せてはいけない」ので、見せるとルール違反になって罪悪感や無価値観が出てきます。しかし、逆に、全く見せないと「悩んでない気楽そうな人」と思われてしまい、それはそれでストレスがかかる…という仕組みです。

このように「どっちにしろ自分を痛めつけている」とか「労力をロスするように仕向けられている」という時には、その仕組みの不条理さに気が付くだけで、手放しが起こる場合があります。

 

ブロックからエピソードを取り出すには

紙がいっぱいになったのでまた新しい様式に書き出します。2枚目の紙でも同様に「なぜそうなのか」を深く掘り下げてみましょう。

ブロックからエピソードを掘り下げるときに探したいのは<セルフイメージや感情>です。

 

①「セルフイメージ」

(例:自分は愛されない、自分は勝手な人間だ)

→ネガティブな形容詞が出てきたら、セルフイメージとして扱う。


②「未消化の感情」

(例:さみしい、わかってもらえない)

→ネガティブな感情が出てきたら、未消化の感情として扱う

さて、ここで出てきた、「××と(人から)思われる」という部分は、実は実際に「私は××だ」というセルフイメージであることが多いです。

たとえば「嫌われる」「がっかりされる」は、「悩みや弱みを見せたらそうなる」という前提条件が付いているようですが、実は、前提は関係なく「嫌われるような人間だ、いつも人をがっかりさせる人間だ」と自分のことを思っていることが多いです。

ピンとこない場合は、試しに声に出して「私は嫌われてる」「いつも人をがっかりさせる」というように言ってみましょう。感覚の鋭い人はブロックを言葉にすると、ざわつく様な気持ちやモヤモヤする気持ちになることがありますので、目安にしてみましょう。

 

ここで少し脱線しますが、セルフイメージの話をしてみたいと思います。

 

セルフイメージとは何か

人は『自分はこうだ!』というセルフイメージを持っています。例えば「日本人だ」「女だ」「真面目だ」「運動が得意だ」「人見知りだ」というようなものです。セルフイメージには、事実のものもあれば必ずしもそうでないものもあります。そして、ポジティブなものもあればネガティブなものもあります。

主にブロックとして扱うのは「自分にネガティブな影響を及ぼすセルフイメージ」です。例えば「自分には能力がない」「自分は不細工である」「自分は人にいつも迷惑をかけている」というようなものです。

<コラム>みんな「自分には価値がない」と思っている

ネガティブなセルフイメージを持っていても落ち込むことはありません。というのも、持っていない人はいないからです。実は、「自分は価値がない」「そのままの自分は愛されない」というブロックは、どんな人でも必ず隠し持っているのです。

例えば自己肯定感が高くて「自分は価値がある!」と思っている人であっても、人生の中で多かれ少なかれ、必ず傷ついたり挫折した経験があり、その痛みが完全に消化されていないと、「自分には価値がない」というブロックにつながっていくからです。

しかし、自己肯定感が高い人であっても、「自分には価値がない」というブロックがあったからといって「価値があると感じている」気持ちが嘘というわけではないのです。

大部分は「価値がある」と思っているけども、ほんのわずか、数パーセントの「価値がない」が混ざっているというイメージでしょうか。

大部分がポジティブであるからこそ、小さな部分の「ネガティブ」が気になって違和感になっていることは多いもの。そんな場合も「ネガティブにしっかりフォーカスし、感じ切って手放す」ということをすると、ますます自分のことを価値があるように感じられるようになっていくのです。

 

しかしネガティブなセルフイメージがある場合、「自分には価値がない」と感じながら生きるのは辛いため、人は無意識にそれを補完しようとして「でもこういう条件を満たせば、価値が認められるよ」というルールを作るのです。

たとえば、小さな頃「いつも親に怒られている=自分は愛されていない」という感覚の子が、「良い点数を取ったらすごく褒められた」という経験をしたとします。すると「良い点数をとれば、愛してもらえるんだ!」という感覚になるわけです。

もちろん親としては「叱っていても、悪い点数でも変わらず愛している」みたいなつもりであることは多いのですが、受け止める側がそのように感じてしまうと、「ありのままの自分じゃダメ、成績が良くないと愛されない」というブロックになるのです。

しかし、この「条件付きのブロック」には重大な落とし穴があります。

努力していい点数をとれた=上手くいっても『頑張らないとダメ=自分はダメ』となりますし、失敗しても『達成できない自分がダメ=自分はダメ」になってしまうので、成功しても失敗しても、『自分はダメ』の呪いが深まっていくのです。つまり、達成してもしなくても、自分を苦しめるだけ。

というわけで、ネガティブなセルフイメージを見つけたら、まずは「そう思い込んでいるけど、実際は違うみたいだ」「これは、達成してもしなくても結局苦しくなるだけのものだ」という前提に立ちながら、その呪いを解いてみましょう。

原感情とは何か

また、別に掘り下げた中で「こうしてほしい」という「切実な訴え」や「さみしい」「悲しい」などの感情が出てきたら、それは<原感情>として扱います。

ここでは「私だって大変なのをわかってほしい」「察してほしい」という訴えが出てきました。

原感情とは、ブロックのもとになっている感情のこと(詳細はこちらの章:「ブロックの成り立ち」で説明しているので参照してください)。今回の件でこの気持ちを感じているのは、『もともと根っこの部分にこの感情があり、それが「成仏」したくて同じような感情を感じる出来事を起こすよう仕向けている』と解釈します。

これもブロックと同様、『繰り返しこういう感情が起こるような出来事が人生に登場してきている』という感覚があれば、ほぼ間違いなく「原感情」です。

 

感情やセルフイメージからエピソードを見つける

では、ここまでで出てきた「セルフイメージ」「原感情」から、エピソードを探してみましょう。

 

多くのブロックは元になる体験があって生まれます。セルフイメージや原感情が出てきたら「そう感じた、なるべく幼いころのエピソードはないか」と探します。人は幼少期(小学生くらいまでの時期)のほうが強くブロックが刻み込まれやすいため、できればそのあたりの時期を探してみるとよいでしょう。

 

「自分は利用され、いいように扱われる」ということを強く感じた、なるべく小さいときの記憶…と考えると「小さな頃、姉だというだけで、いろんなことをさせられた」という思い出が出てきました。

 

また「私だって大変なのわかってほしい」「察してほしい」という訴えからは「自分は習い事が嫌だったのに文句を言わずに静かに通っていたが、妹は『イヤだ』と騒いでいた。親も妹にかかりきりだった」というエピソードが出てきました。

特に後者のように「いつ、どこで」が明確なエピソードが出てきたらしめたもの。ここからこのエピソードに対して、<手放し>を行っていきます。

Posted by momokami